Present for You *いずみ遊*













「これ、何だと思う?」

 せつらがそう言いながら黒いコートのポケットから取り出したのは、
赤く丸い物体が入った袋。

「飴、かね?」

 机に半分、腰掛けて、ファイルを捲っていたメフィストが
顔を上げて言った。
ぴんぽーんと、せつらは飴玉を取り出す。
実はね、今日配ってたんだ、と。

「クリスマスに、溶けない愛を、ってね。
<新宿>にしては粋な宣伝をするだろう?」

 その間にメフィストにゆっくりと近付いて、
口元にビー球サイズの飴を持って行く。
メフィストの紅い唇に、紫がかった赤色をしたそれは、
酷く扇情的だった。

「……毒見かね?」

 メフィストは苦笑しつつも、軽く口を開いた。
せつらは何も言わずに、飴をメフィストの口の中へ押し込むと、
そのままメフィストに躯を寄せ、口付けた。
互いの脚が絡まり、口付けは直ぐに深いものへと変わる。
時折、飴玉が歯に当たる音がし、それが妙にいやらしい。
メフィストが何か言いたげに瞳を開いたが、
せつらはそれを、同じ様に瞳で制した。
メフィストの目が細められ、その手が、せつらの後頭部に回る。

「ん……」

 凶暴なキス。
甘い唾液が、一筋、せつらの首を伝った。








「一体、何処の誰がこんなものを配っていたのかね」

 漸く離れた唇は、しかし、一センチと遠ざかってはいなかった。

「歌舞伎町界隈で、ずらりと……。
ねぇ、キスして?」

 濡れた瞳が、誘うように揺れた。
メフィストは舌で死守した飴を、ガリ、と噛み砕いてしまってから、
せつらのポケットを探った。
それだけで、吐息が頬を掠める。

「やはり……。
違法ではないが、列記とした性欲昂進剤が含まれている」

 袋に明記された、原材料に、メフィストは微かに顔を顰めた。

「知っていて何故受け取ったのかね?」

「さて、クリスマスだからかな」

 のほほんと、躱す。
そして、探るようにメフィストの瞳を覗き込む。

「それ、二人で舐める用だから、薬も普通の二倍入ってるんだよ?」

「……その様だな」

 メフィストの表情は何時もと変わらない。
せつらは、肩を竦めて溜息を吐いた。

「なーんだ、やっぱり効かないか」

 メフィストの目が、すっと細められる。

「――どうかな……」

 氷の様に冷たい指が、せつらの顎を捉えた。

「試してみるかね?」

 噛み付くような、甘い口付け。

















 掴んだものがカーテンだと知ると、せつらは、
力なく笑った。
窓の外に、煌く電飾。
やはり、常よりは品が良く見えるのは、クリスマスのお陰だろうか。
眠らない街。
異常な明かり。
本当は、そうじゃない。
夜は怖いから、誰かに寄り添っていたいだけなのだ。

「んぁ……っ……」

 ガシャンと、カーテンレールが騒ぎ出す。
左手が、支えを探して空を彷徨うが、また白い壁をずるずると滑る。
その手を、背後から掴む、手。
指を絡め、そのまま壁に固定してしまう。
項の辺りをなぞっていた唇が、柔らかに肩甲骨を食んだ。

「う……つき……っ」

「何がだね?」

「ぜ……ぜん、効いて……ないじゃ……っ」

「私は薬が効いたなど、一言も言ってはいないが?」

 余裕綽々のまま、右手がせつらの胸へと伸ばされる。
密着した躯からは、熱が十分に伝わってくるのに、
行動は裏腹だった。
丁寧、と言える範囲のものではなかった。
じっくりと、まるで観察でもするように、せつらの躯を
暴いていく。
決定的な刺激は決して与えずに。

「も……無理っ……」

 自らの下肢へと伸びる手を、メフィストは愛しげに掴み、
既に捕獲していた左手と共に、せつらの頭上に繋ぎとめた。

「……っじらんない……」

「君があの飴を私に舐めさせるに至った経緯を考えてみたのだがね……」

「このっ……藪っ!!」

 せつらは、躯を反転させて、メフィストを見上げる。
少し、体重を壁に預ける形になっているのは、ご愛嬌だ。
既に自力で立つことは不可能なのだから。

「怒ってるんだろ?分かってるさ。
だからって……なぁ……」

 針金で手首を縛ることは無いじゃないか、と続く筈の言葉は
喉の奥へ仕舞われた。
せつらの両手を縛っていたのは、メフィストが何時も使用している
針金ではなく、赤色のリボンだったのだ。

「……だからって、何かな?」

メフィストは微笑みながら、せつらの手を取ると、
自分の頭を、せつらの腕によって出来た輪へ通した。

「だからって……」

「言っておくが、別に怒っている訳ではないよ」

 頬が触れ合う。
カーテンが揺らめく。
白い壁。
繋ぎとめられた躯。
赤い、リボン。

「ただ、私に非があるのかと思ったまでだ」

「何が?」

「さて」

 何の予告もなしに、メフィストはせつらの中へと切り込んだ。
一度も触れられていない筈なのに、そこは熟れ過ぎた果実の様に
柔らかく、メフィストを受け入れた。











「なんで……赤かな……」

 今まで焦らしていた分を埋め合わせるように、優しく突き上げられながら
せつらはぼんやりと呟いた。

「君から飴を貰ったから、という理由は却下かな?」

「……馬鹿」

 せつらは瞳を閉じて、そっとメフィストの肩に顔を埋めた。

「それじゃぁ、お前がリボンつけてなきゃ可笑しいじゃないか……。
あっ……、僕は、お前から何も、貰ってない……」

「違う。そのリボンは、別の……、いや、……」

 妙な語尾に、せつらは顔を上げた。

「何だよ、お前にしてはっ……歯切れが…悪っ……」

「愛しているよ、せつら」

「ちょっ……!この、藪っ……ああっ…いき…りっ……ん……」

 急に深くねじ込まれ、せつらはメフィストの首にしがみ付いた。
両手が塞がれている以上、逃げることは叶わないのだ。
メフィストは、せつらの耳が近くにあることをいいことに、
淫靡に微笑みながら、囁いた。

「責任は取ってくれるのだろう?」
























 決して薬の効果が無い訳ではないことと、
院長室にリボンが無いプレゼントがあることは、
世にも美しいお医者様だけの秘密だ。










――街のイルミネーションは、まだ消えない。


























 Merry Christmas! いずみ遊 2002年12月24日





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