一体誰が、メフィスト病院の不祥事を外部へと漏らしたのか。
考えて見れば、それが一番の謎であった。
臓器の不正輸入に気付いた職員がいれば、
まず、メフィストに話を通す筈である。
しかし、メフィストも今朝の新聞を目に通した婦長によって、
初めてこのことを聞かされたというのだ。
おかしい。

 この場合、考えられる可能性は二つ。

 まず、ドクター・メフィスト自身が不正輸入に関っていた、若しくは、
その職員には関っていたように見えたという場合。
この場合は、メフィストに話を通すことはしないだろう。
しかし、せつらには、それを否定することが容易であった。
メフィストが不正輸入に関っていないことなど、明らかであったし、
メフィスト病院の職員ともあろうものが、絶対神であるメフィストを
疑うとは思えない。

 それでは、もう一つの場合。
ドクター・メフィストに恨みを持つ者による告発。
この場合は更に細分化される。
恨みを持っていたものが不正輸入に気付き、告発した場合。
そして、恨みを持っていたものが不正輸入をしていて、
更にそれを告発した場合。

 メフィストを恨んでいなければ、不正輸入を発見した時点で
まずメフィストか、警察へ進言していただろう。
それをせずに、あろうことか新聞社へ情報を漏らすという陰湿な
やり方を取ったところに、相当の怨恨を感じる。

「ということは、知ってるな」

 せつらは新宿通りの上空を舞いながら、一人呟いた。












「私は、誰がやったか知らないなどと一言も言ってはいないぞ」

 院長室で、ドクター・メフィストは何時ものごとく書類に目を通しながら
あっさりと言った。
せつらは拍子抜けして、ソファーに崩れるように座った。

 それ程の恨みを買う様な奴を、メフィストが知らないはずはない、と
せつらが指摘したところ、院長は当たり前だと肯定したのだ。

「不正輸入をしていた実行犯は久保崎実。
私がプラハへ行っている間にやって来て、碌に仕事もせず、
データの書き換えをやっていた男だ」

「……書き換え?」

「そうだ」

「じゃぁ、臓器の<区外>からの輸入は……」

「それは有った。ただ、それが健常者の臓器かどうかは知らぬがね」

「え?」

 せつらは訳が分からず、取り合えず目の前に出されたコーヒーに
口をつけた。
そういえば、朝からまともに食事をしていない。

 臓器の<区外>からの輸入は有った。
それが健常者のかどうかは分からない。
けれど、取り合えずは正規のルートではない臓器の入手の仕方。
それを実行したのは、久保崎実。
……実行犯?

「じゃぁ、計画したのは?」

 その疑問の声に、メフィストは漸く顔を上げた。

「数年前にも似たような事件が起きた。
覚えているかな?
私の病院へ自分の刺客を送り込んできた女を」

「まさか」

「そのまさか、だよ。
こんな回りくどいことをしてまで、私が自分の非を認めるところを
見たかったらしい」

「じゃぁ、全て仕組まれていたことなの?
久保崎実も……」

「恐らくは、医者でも何でもない。もしかしたら人間でもなかったかも知れぬ」

「……」

「これでお分かりいただけたかな?
女の執念というものがどれ程滑稽なものか。
私が女を嫌悪するのも無理はなかろう?」

 メフィストの言葉に、せつらは疲れたように頷くしかなかった。












 優秀な新宿警察は、メフィスト病院へ輸入されていた臓器が、
不正ルートであったことを認めつつも、久保崎実という個人が
勝手に行ったことであるという見解を発表。
そして、臓器提供者が一人として見つからないことも併せて弁解していた。
恐らく臓器提供者など一人も生きていないだろうとメフィストは予言していたが、
それは予言というよりは真実を語ったまでだったようだ。

 ともあれ、一個人の行った不正を自分の監督不十分として
謝罪したメフィストを見て、区民の大半は好感を持ち、
また何処かでこれを見ていただろう黒衣の女医も、
少しは自分の欲望を満たせた……ことを願うしかない。














「しかし、あいつの女嫌いは、あの人が元凶だったりして……」

 せつらの疑問は、やや確信を持ったものとして発せられた。























日記1300キリ。堕天使さんより「せつら」というリクエストでした。
シビウお姉さまを知らない方には、女って誰?っていう感じでしょうが、
魔界医師メフィストシリーズの魔女医シビウというお話のAfter Storyでした。
ちなみに私はメフィの女嫌いは絶対シビウからきている、と確信しています。
いずみ遊 2002年8月27日




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