melt into Love *いずみ遊*










「相変わらず、おもてになりますことで」

 部屋のドアが開いた途端、美しい中にどこか茫洋とした声が
白いケープに当たり、滑り落ちた。

「来るなら来ると連絡したまえ」

 切れ長の目が黒いコートを認めると、そう言った。

「あん?連絡したらその手に持ったものは
そこには現れなかったと?」

 だらしなくソファーに寝転がり、雑誌をめくりながら、
新宿一の人捜し屋が毒づいた。
毒づかれた新宿一のドクターは、ソファーの背に回り、
腰を屈めた。

「患者からの気持ちを無碍には出来ぬ。
それとも、こんなものが君の嫉妬対象になると?」

 こんなもの、と言って、態とばらばらとチョコレートを
腹の辺りに落とす。
人捜し屋は雑誌をテーブルに置いて、医者を睨んだ。

「誘ってるのかね?」

 医者はおどけてその矛先を捻じ曲げながら、
さらに腰を屈め、人捜し屋の唇に自分の唇を重ねた。
抵抗するかと思われたが、人捜し屋の腕が伸び、
白いケープの首の後ろを掴んだ。
かさり、とチョコレートのいくつかが、床へと落ちる。





「年に一度、ということで許してはもらえぬのかね?
本当に欲しいのはせつら、君からだけなのだが」

 せつら、と呼ばれた人捜し屋は、濡れた唇を袖で拭って、
顔を逸らした。
奇麗にラッピングされた贈り物は、大半、床の上で
積み木のようになっている。
医者は、まだ辛うじてせつらの腹の上に乗っていた一つをとって、
テーブルの上に載せた。
せつらはそれを手に取り、壁に向かって投げつける素振りを見せ、
数秒固まった後、再びテーブルに戻した。

「一体何人に愛想を振りまけば気が済むんだよ」

「振りまいているつもるはない」

 せつらはソファーから起き上がり、床に落としたチョコレートを
全てテーブルの上へと載せた。

「おまえが笑っていいのは僕の前だけだ」

 医者は、その言葉にひっそりと唇を歪めた。










 甘く熱い匂いが充満する浴室。
医者は、足を踏み入れて、眉を顰めた。

「優秀な我が病院のスタッフを、こんなことに使ったのかね」

 たっぷりと浴槽を満たすのは、茶色い液体。
それは、チョコレートに間違いなかった。

「詰まるといけないから、アーモンド入りとかは
きちんとはねてもらったよ。
ジャム入りなんかもあったみたいだけど、
流石はメフィスト病院のスタッフ、全部より分けてくれたみたい」

 オレンジ色の明かりが煌々と照った浴室に、
チョコレートの浴槽。
嬉々として座っているのがたとえ、大切な恋人だとしても、
それはどうなのだ。
医者は……否、新宿一の名医、ドクター・メフィストは
後始末も自分のスタッフにやらせる気なのかと思いを巡らせ、
溜息を吐いた。

「嬉しくて、溜息がでる?
ほら、早く座れよ。
髪を結ってあげる」

 せつらは不敵な笑みを崩さぬままメフィストを誘った。

「環境問題も何のその、だな。
君の嫉妬心は、時々私の理解の範疇を越えるらしい」

「お褒めに預かり光栄だ」

 メフィストの長い髪の毛を器用にアップにしながら、
せつらはその首筋に唇を滑らせた。

「わざわざチョコレートに浸からなくても、十分甘いんだけど」

 思わせぶりに間を空けて、せつらは手を伸ばした。
浴槽にほんの少し浸けただけで、人差し指には
茶色のねっとりとした液体が絡みつく。

「せつら?」

 開いた口にチョコレートをねじ込みながら、せつらは
くすりと笑った。

「もらったチョコレートはおまえが責任もって食べなきゃ、ね?」

「……っ」

 するりと指が滑ったのは、口元だけではなかったようだ。










――浴槽の栓を抜くより、向こう数時間の予定調整を選ぶという
恋人優先のメフィストが正しかったのか否かは、
聞かぬが花、というものである。
















数時間後にホワイトチョ……←いずみさん!!
こう、ね。チョコレートはあげるより食べたいですね。はは。 
いずみ遊 2004年2月14日




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