所有格 *いずみ遊*













 頼まれた仕事の95%を片付け、その足で病院まで出掛けたのは、
予感があったから。
靖国通りを折れ、旧新宿区役所、現メフィスト病院の前まで来ると、
その予感はほぼ、確信といって間違いなかった。
顔パスの受付を通り、院長以外、どこにあるのか知らないと噂される
院長室へと向かう。

 場所は知らないが、行き方なら知っている。
「院長室へ行く」と思うだけだ。
そして、その扉は突然現れる。
宝探しの最後にあるような、重々しい院長室への扉。
院長が望まない者には開かないというが、未だかつて拒まれたことはない。
今回も。
その外見とは裏腹に、片手で簡単に開いた。











 音もなく開いた扉に、はっと振り返ったのは一人の男。
大机の前に座ったこの部屋の主はこちらを見ようともしない。
ここに僕が来ることなど、百も承知だ、というのと、
理由はもう一つ。

「ああ、あき……せつら……」

 大して暑くもないのに、急に汗を流し始めた男に一瞥をくれ、
院長――ドクター・メフィストを見る。

「これで、依頼は全て完了だね」

 簡単な報告に、メフィストは微かに頷いた。
今、メフィストが動かせる最大限の幅だ。
これが、もう一つの理由。
彼は身体の自由を奪われている。

「わ、私はこれで……」

 そんなやりとりの間、石と化していた男が、我に返ったように宣言した。
どうにか笑顔を貼り付けて、扉の方へと足を進める。
その歩みによって生じる風から微かな血のにおい。





 甘い……――





 一瞬、メフィストと目が合う。
――病院内での殺生は……
――今回は、見て見ぬ振りだろ?

 メフィストの溜息と同時に、指が動く。
文字に出来ない叫びが、院長室の真ん中から起こった。
不可視の糸で絡め取った男。
せっかく動き出せたと言うのに、これで、また石へと逆戻りだ。

「おまえ、誰のものか知っていて手を出したのか?」

 床の上で身動きが取れない男の真正面へ回る。
声も出せないほどの苦痛を与えているから、答えはない。
初めは赤かった顔は、紙よりも白くなっている。
残念ながら、そんな男の様子を見て助けるものはここにはいない。

「じゃぁ、答えだけを言わせてやろう。
おまえ、あれが誰のものか知っていたか?」

 少し、糸を緩める。
途端に、激しく息を吸い込む。
数度、繰り返して男の口はようやく音を手にする。

「あき、せつら」

 よくできました。
助けてでも、赦してくれでもなく、ただ一言。
ご褒美に一瞬でケリをつけてやろう。
微笑んで、人差し指を軽く動かす。
血は流さないように細心の注意は忘れずに。
何せここは光の住まう場所なのだから。










 人間から新鮮な臓器のかたまりへと昇格した男は、
どこからともなく現れた看護師によって運ばれていった。
今日も誰かの病が治る。
この医者の病も、また。

「何で自分で招き寄せるんだよ。
僕が信用できないの?」

「すまない」

 口だけは何とか動かせるが、身体までは動かせないメフィストをソファへ運ぶ。
近寄ると、更に血の匂いが増した。
おおよそ……

 黒髪を背中へと流すと、やはり首筋から血が流れていた。
鋭利なもので切られている。
ナイフか、メスかそれとも……。
止血の前に、傷口に舌を這わせる。
逃げたいのだろうが、身体が動かないので、それも叶わない。

 舌から口内へ甘い香りが広がる。
これを、もし他の人間が……――
考えただけで、波打つ心臓をどうにか抑え、
希望通り止血処理を行う。
メフィスト自身がやった方が、数千倍治りは早いが、今は仕方ない。

「おまえはいつも、顔とか首とか、目立つ場所をやられるな」

 誰もが、おまえを自分の手で傷つけたいと欲するから。
完全なる光に、一点でもいい、闇を侵食させたいと願ってしまうから。

「君が来てくれて、助かった」

 殊勝に言う医者を見ながら心の中で呟いた。
さて、それはどうだか……。













 研究を続ける医者にとっては、「不老不死」というのは、
特別なテーマであるらしい。
魔界都市、と呼ばれるようになってから久しいこの街でも、
それを完全に成し遂げた例は未だない。
人間が想像できるものは、大抵、人間が出来ることである、とは
よく言われるが、こればかりは、言うは易く、の筆頭に挙げられるだろう。

 何事にも一番、には名誉と金がつきまとう。
そして、そんなものを自分のステータスにしたいと願う者たちが集まり、
馬鹿馬鹿しい妄想を広げていった。

 つまり、魔震の後に、忽然と現れた美しい白い医師は、
「不老不死」を体現しているのではないか、と。

 一度考え付いた案は、駄案でもなかなか捨てがたい。
愚かな考えだとは分かっていても、その先に、莫大な金が埋まっているなら……。
かくして、数名の医師は十数人の魔法使いを雇い、
ドクター・メフィストの自由を奪うという、
新宿区民が全員、顔面蒼白となるようなことを、計画。実行に移したのだった。



 その日は、僕が人捜しのため、区外へ出かけた日だった。
自分の身体の異変に気づいたメフィストが、連絡を寄越して来た時、
僕は何の感動もない捜し人と依頼人のご対面に付き合っていた。
胸ポケットで震える携帯電話に表示されている名前まで分かっていたが、
出なかった。

 折り返しの連絡をした時にはすでに、メフィストの身体はほとんど動かなくなっていた。
しかし、事態を淡々と告げて、彼はこう言った。

「私の自由を奪った人間を、全員捜し出してはくれないかね」

 期限も報酬の話も一切なし。
要するに、好きにしろってことだろ、と行間を読み取った。













 メフィスト自身は自由に動かせない身体でも、僕なら簡単に動かせる。
ソファーに押し倒して、ケープに手をかけた時、何かを言いたそうにしたが、
結局諦めたらしい。

 ベルトを外し、下着ごとズボンを投げ捨てても、
今日ばかりは何の抵抗もできない。
魔法の所為とは言え、その従順さに息が上がった。

 片方の足を掴んで、ソファーの背もたれへと乗せる。
僕の前で大きく脚を開く形になるが、それを止める術もやはり、
今のメフィストにはなかった。
ああ……もう……このまま……――

「……何も、全員殺すことはなかったのではないかね?」

 無理やりにでも事を進めようとした僕に焦ったのか、
メフィストが口を開いた。
思考は完全に、これからのストラテジーで占められていたが、
ふと、殺す瞬間の全員の顔を思い出した。

「殺すなとは言われてないし、別に契約違反じゃないだろ?
それに……」

「それに?」

「全員、僕を見た途端、恐怖で固まるんだ。
そりゃ、ご期待に応えないと、ね」












 ある者は、身の回りのものを形振り構わず投げつけてきた。
 ある者は、床に頭をこすりつけながら赦しを請い、
 ある者は、窓から飛び降りようとした。

 全員を、糸で縛り上げ、僕はこう訊ねた。

「あれが誰のものだか知っていて手を出したのか?」

 訊ねながら、自分がどんなに完璧に笑っているか、自覚していた。
秋せつらを見ての恐怖とは、すなわち、
ドクター・メフィストが誰のものかを確実に知っているという証だ。

 狂っている?
そうかもしれない。
だが、死と目の前に対峙した人間は、そんなことは考えない。
だから、聞いたのだ。












 あの日、メフィストから、「身体が動かなくなった」と言われた時の衝撃は、
実はあまり覚えていない。
メフィストから依頼を受け、僕はその時の依頼人を区外に置いたまま、
新宿へと戻ってきた。
ゲートを通った瞬間に、新宿へ帰って来たことに自分で驚いたくらいだ。

 正直に言えば、そんなことを、一切想定していなかった。
メフィストは光だ。
そこにあるだけで、闇を一瞬で切り裂く光。
今までだって、逆恨みや誇大妄想から彼を傷つけ、自由を奪おうと
寄ってきた闇はいくつもあった。
だが、実際に自由を奪うことに成功したものはなかった。
それは、僕にしかできないことだ。そう、何の根拠も無く思っていた。

 無性に腹が立つ。
誰に対して?
それは……――。
かちりと、ピースが嵌る。
メフィストは僕の気を逸らそうと、話を振ってきたのだが、
彼にとってはかえって状況を悪化させただけに過ぎなかったようだ。
本日の作戦決定。












「メフィスト、おまえ、僕が最高に不機嫌だって知ってるだろ?
その理由、ちゃんと分かってる?」

 僕が何かにひらめいたことに気づいたのか、
メフィストは警戒して答えをすぐには出してこない。

 その間に僕はこれ以上警戒させないよう、ことさら丁寧にメフィストの服を脱がせ、
白い肌を撫ぜた。
柔らかい僕の愛撫にも敏感に反応する自分の身体を、
メフィストは特に何とも思っていないらしい。
そこがよく分からない。

 緩く勃ちはじめたメフィストを口に含むと、漸く、メフィストの警戒が溶けるのを感じた。
答えなくてもいいと思ったのだろう。
その誤解を否定せず、指をメフィストの中へ押し込んでいく。
少し性急だけど、口の中で大きくなったものを感じたから、平気だろう。

 そうやって口と指を動かしていると、次第にメフィストの呼吸が浅く速くなってくる。
もうそろそろか……。
動きを止めて顔を上げた。

「答えは?」

「せ……」

 すっかり終わった話だと思っていたメフィストは、驚いてその後の言葉を言えない。
答えをもらうという固い意思表示のため、そのまま動きを止めていると、
早く、とメフィストの身体が誘ってきた。
じわりと指を包む体温が上がり、引き込まれそうになる……――。

 いつもなら、ここで口付けをせがむ様に首を引かれたりするので、
そのまま誘いに乗ってしまうけれど、今日はそれがない。
その誘いには乗らないよ、と指もメフィストの中から引き抜く。

「ねぇ、理由。分かってるかって訊いてるんだけど」

 首をかしげて見せると、観念したのか、口を開いた。

「……私が、あの男をこの部屋へ招き入れたこと」

「そうそう、あとは?」

「私が、身体の自由を奪われたこと」

「うんうん」

「……」

「え? それでおしまい?」

 まぁ、そこまでもきっちりシナリオ通りなんだけど。
微笑んで床に落ちていたケープごとメフィストを持ち上げる。

「じゃぁ、身をもって教えてあげよう」

 戦況は第二ステージに突入する。












 数歩で、運ばれていく先を理解したらしいメフィストは、
非難めいた言葉を口にするが、そんなものは痛くもかゆくもない。
その場所に辿りつき、行儀は悪いが脚でケープを絨毯へと広げる。
絨毯が汚れると嫌がるので仕方ない。
汚れたケープはどう釈明するのかは、メフィストが考えれば良い事だ。

 注意深く腰を下ろして胡坐をかき、体勢を整え、メフィストを胡坐の上へ座らせる。
メフィストの顔を真正面へと向かせて、完成だ。

「せつら……、これだけは……」

 どうしても諦めてしまうことができないらしいメフィストが、嘆願してきた。
せっかくの光景を、メフィストはちらりとも見ない。

 僕は真正面を向き、その光景をしっかりと見た。
目の前にあるのは、院長室に唯一つある大きな鏡だ。
鏡には、瞼を閉じたメフィストと、その肩越しに鏡を見る僕が
仄暗く映し出されている。

 その暗さも淫靡だったが、求めているものはそんなものじゃない。
明かりを、と何度もメフィストの耳元で囁くと、
僅かだが、十分な照明が部屋を照らした。
素晴らしい。

「さて、メフィスト。よく見えるようになったことだし、目を開けなよ」

「君が見る分には、構わない。だが、私は……」

 言いよどむ。
抱かれている最中でも、どこをとっても最高に美しいのに、
メフィストは自分の姿を僕に描写されることを酷く嫌う。
きっと、鏡もそうだろうと思っていたが、やはり予想は当たっていたみたいだ。
自分の身体の変化は全く持って無頓着なのに、一体どこが彼の羞恥や嫌悪の
ボーダーなのか、未だによく分からない。

「目を開けないなら、続きはしないし、永遠にこのままだ。
その間、僕は素晴らしい絵画をじっくり目でも感触でも楽しませてもらうわけだけど」

 脚を開かせ、中心で存在を主張しているものをゆっくりと手のひらで包み込む。
メフィストが深く息を吐いた。
それはそうだ。
昂りを途中で投げ出されたのだ。
こんな些細な刺激でもメフィストにとっては、快感としてインプットされるに違いない。

「身体は構って欲しいみたいだけど?」

「……っ」

 限界の一歩手前なので、頂点に達してしまうような刺激は与えない。
注意深く、それでも耐えられない快楽を注ぎ込むように手を動かしていると、
うう、だか、ああだか呻いて、メフィストが薄く瞼を開いた。
目を開ければ、自分では動かせない顔の所為で、嫌でも鏡を直視することになる。
一瞬、目を逸らしたが、それでも最後にはきちんと鏡を見て、
鏡の中の僕と目を合わせてきた。

 僕は、今日の戦略がきちんと進んでいることに思わず微笑む。

「そうそう、そのままちゃんと見てるんだよ。
まぁ、まずはご褒美ね」

 不規則で緩慢だった手の動きを、規則的なものにしてやると、
唇を噛んでも抑えられない喘ぎが漏れてきた。
これを耳元でやられたら、こちらも我慢できないメフィストの武器だが、
それも今は身体が封じられているため、使えない。
あくまで余裕を見せて、言ってやる。

「いいよ、イって」

 大きく動かし、肩に噛み付く。
もちろん、目は鏡を見たままだ。
何故なら。

「あ……っ……!」

 メフィストが無意識に瞳を固く閉じた。
そう、その調子。
思い通りに行き過ぎて、笑えてくる。
凶悪な僕の笑みを、鏡は見ていたが、鏡を見ていなかったメフィストは知らない。
僕は最後の最後で、メフィストから手を離した。

「せ……」

 あと一押し、という絶頂への波を、急に絶たれたメフィストは、
身体に溜まった欲望のやりようがなく、えもいわれぬ表情をした。
その顔を直に見たくて、顎を掴んで、顔をこちらへ向ける。

「堪んないね、その顔」

 世界中の誰が想像しようとも、想像出来ない表情だ。
もちろん、僕の手によって殺された20名弱の魔法使いと医者にも。
薄く開いた唇に口付けると、燃えるように熱かった。

「いくら君でも……」

「いくら僕でも、やって良いことと悪いことがある?
でも、約束した通りだよ。
おまえ、今、目を閉じただろ?」

 二度、止められた熱は、簡単には消えない。
呼吸を何とかなだめようとしているらしいが、無駄だ。
寧ろ欲望は増幅し、それ以上の熱を求めよと、身体は訴える。
ここからが、最終ステージだ。










 最終ステージの前に、問いかけの答えを教えてやることにした。
まぁ、要するに、今回のストラテジーの目的だ。

 あの馬鹿な連中が、メフィストを追い詰めようと思案している最中、
そこに純粋な医学への興味と、権力と金への執着だけがあったなんて
僕は思っていない。
メフィストの自由を奪い、ナイフを突き刺し、その血を十分に採った後……。

「自分のイく寸前の顔、見た?」

「……せつら……」

「それを、やつらが想像していたとしたら、どう思う?」

 そう。
それが、答えだ。
僕をもっとも不機嫌にさせたのは、やつらがメフィストの乱れる姿を想像し、
欲情した、ということだ。

「きみは、他人のあたまの中にいる、わたしですら、
赦せないのかね?」

「当たり前だ」

「なぜ、君は、そう……」

 ――何故君はそう、私を支配したがるのかね?












 何故?
一つは、他のつまらないやつらと同じ理由だ。
穢れない光を、自分の手でめちゃくちゃにしてやりたいという、嗜虐心。

 光は、ただそこにあるだけで、闇を排除する。
だから、一度でいい。
勝利をし続ける、その山の頂上から無理やり引きずり下ろし、
僕の勝ちだ、と言わせたい。
そんな、本人にとっては傍迷惑な理由。
もう一つの理由。それは……。












「支配じゃないよ。メフィスト」

「……?」

「……支配じゃない。
僕はおまえをただ、所有したいだけだ」

 幾度も、愛を囁かれた。
つれない、と言われ、想い人と言われ、
そんな下らないことを言うな、と本気で怒っていた。

 真っ白なくせに、何にも染まらない。
誰のにおいもしない、生きているのかすら分からないやつに、
常に照らされ、影扱いされて堪るか、と思っていた。

 その考え自体が、もう、おまえを意識しているということも分からずに。



「おまえは僕のものだ。
今後、一切、誰にも傷つけられない、誰にも興味を持たないようにしろ、
という条件を、おまえは飲んだ。
だから、僕はおまえに全て差し出した。
これを支配だとおまえが思うなら、そうかもしれないけど」

 ぐい、とメフィストの中に指を突き立てると、唇の比じゃないほど、熱く、蕩けていた。
駄目だ。流されそうだ……。

「だけど、メフィスト。
おまえは笑うかもしれないけど……」

「……わらわ…ぬよ」

「……僕は多分、おまえを残して死ぬ。
おまえは眩しいから、闇が寄ってくる。
……そんなの、耐えられないんだよ、メフィスト。
僕の知らないところで、誰かがおまえを、なんて、そんなこと……。
僕は一生掛かってでも、おまえを僕の闇で覆い尽くす。
他の誰からも見つからないように」

 そして、おまえを僕だけのものにする。
秋せつらの、ものに。












「理解した?」

「りかい、したいが、その指を……っ」

 あんまり深く考えて欲しくないから、してるんだけど。
メフィストの中をかき回していた指を二本に増やすと、僅かだが、
身体がのけぞった。
魔法が切れてきているらしい。

「指を?」

「せつら……!」

「さっきから言ってる通り、鏡を見ている間しかしないよ。
で、見ている間に、何をして欲しいの?」

 目の淵を赤くして、メフィストが唇を噛んだ。
そうでもしないと、絶え間なく声が漏れてしまうのだろう。
魔法も切れかけているし、ここまでか?
こっちももう、いい加減、限界だ。

 今回の作戦は、最終ステージでこちらの兵力が尽きてしまったようだ。
真っ白なこの男を、灰色くらいまでには染められただろうか?
……分からないな。
体制を変えようとメフィストの腰に手を回した時、
メフィストが小さく呟いた。

「え?」

 聞き取れなくて口元に耳を寄せる。

「せつら、口付けを……」

「あ、うん」

 先程のような、触れ合うだけのキスではなく、
もっと深い口付け。
本当に、駄目だ。
もう……。

 唇を離すと、せつら、と再度、名を呼ばれる。
キス?
と再度近づくと、ちがう、と言われた。
今にも涙が零れそうな瞳で見つめられる。

「せつら……」

「うん? もういいよ、メフィ……――」

「は、やく……いれて」

 ……。
入れて?
今まで一度も言われたことがない言葉に、指が止まる。

「ゆび、ではなく、せつらの……」

 心臓が、飛び出るかと思った。
自分から決して求めてくることがなかったメフィストの、その言葉に、
緩む口元を押さえきれない。

 指を抜いて、メフィストの中に一気に侵入した。
うわ……。
それだけで、意識を全て持っていかれそうな感覚に陥る。
思うままに腰を突き上げたいのを我慢して、どうにか踏みとどまった。
今日だけは、嗜虐心からではない、この愛しい気持ちだけで、
穏やかに抱きたいのだ……――



 そう、心に固く決めたのに。












 メフィストの唇が動く。

「―――」

 ……。
言ったのは、おまえだからな。




















黒白好き過ぎて、難産でした。難産の様子は、Noteで確認してください。はは。
幾通りものストーリーを考えては消し、最終的にはこの形になりました。
気に入っていただけると嬉しいです。
リクエストありがとうございました!


2009年3月15日 いずみ遊



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