詳しい話もしてみようか *いずみ遊*
<魔界都市>新宿。
何でもありのこの街で、二つ犯してはいけない掟がある。
一つ、秋せつらに手を出してはならない。
一つ、ドクター・メフィストに逆らってはならない。
この掟を破りさえしなければ、少しはまともな死に目にあえるだろうよ、と
道から外れた人間たちでさえ暗黙のうちに了解している事項だ。
秋せつら。
西新宿でせんべい屋を営む若旦那。
せんべいのおいしさもさることながら、
店長の美しさ見たさにやってくる観光客も多い。
裏では、人捜し屋をやっている。
誰もが認める<新宿>一の人捜し屋だ。
とあるデブの情報屋によると、<僕>から<私>へと
変わった時が一番ヤバイらしい。
何が?
そんなことは聞くまでも無い。
そんな状況に陥らないことを願うばかりだ。
ドクター・メフィスト。
クラブ『SHINJYUKU』のオーナー。
何故ドクターかというと、彼にかかればどんな病も治ってしまうからだ。
最高危険地帯、新宿中央公園に不時着し、二日後に救出された
当時の新宿区長と総理大臣の治療を行ったことは、
<区民>には耳タコの事実だ。
彼は自分の店で、いざこざが起こるのを酷く嫌う。
しかし、ここは<新宿>。
店内で死人の出ていない店など、ほぼ皆無だろう。
『SHINJYUKU』でも、日に一度は軽い諍いが起きるし、
それによって負傷者も出る。
そんな時、ドクター・メフィストの取る行動とは……。
負傷者を癒し、加害者を――。
恐ろしくて、それ以上は言えないが、悟って欲しい。
つまり、だな、この二人は<新宿>を代表する<魔人>と
いうわけなのさ。
「ようこそ」
男三人連れで『SHINJYUKU』やって来たサラリーマンが
入り口でそう声を掛けられ、固まった。
白いケープを見なくても分かる。
圧倒的な美の雰囲気だけで。
この店のオーナー、ドクター・メフィストだ。
普段、店に滅多に顔を出すことが無い彼だが(彼が顔を出せば、
店中が動かなくなるから、商売にならないのだ)
どういう風の吹き回しか、店の入り口にまるで彫刻のごとく立っている。
それだけで、幾らの宣伝効果になるか。
億単位は下るまい。
「三名様ですね?どうぞこちらへ」
突っ立ったまま動かない客を、奥から出てきたホステスが案内する。
従業員は、精神安定剤の服用を義務づけられているが、
それでもどこか目が虚ろになってしまっている。
それが、ドクター・メフィストの美の威力だ。
何名かの客を、同様の事態に陥らせた後、漸くメフィストの表情が動いた。
驚くべきことに、彼は客に笑いかけるということを一切していなかったのだ。
ドアが音も無く開く。
「ようこそ」
重厚なドアから吐き出されたのは、ドクター・メフィストにも引けを取らない
美貌の持ち主――つまり、秋せつらであった。
「珍しいね、お出迎え?」
入り口の脇に立つメフィストを見て、せつらはにっこりと笑い、首を傾げた。
並みの女なら、それだけで地面に倒れこんでいるだろう。
「偶には、良いかなと思ってな」
「あまり、感心できないけどね」
せつらはそう言って、メフィストの肩に手を置き、そっと口付けた。
周りを気にする様子も無い。
抜けているというべきか、堂々としているというべきか、
判断を迷うところである。
「商売に精を出すことが?」
ケープからドクター・メフィストの腕が伸び、せつらの腰を捉える。
こちらも、周囲のことなど考えていないらしい。
「ん〜?まぁ、仕方ないけどね。
あまり外に出して、人に見せたいものじゃないからな……」
「私を牢屋にでも閉じ込めるかね?」
笑いを含んだ声で、メフィストが問う。
せつらは肩を竦めた。
「糸で縛りつけるの方が、現実味があるけどね」
メフィストは本格的に笑い出した。
他の人間が見たら、目を剥く様な光景だ。
「笑いごとじゃないよ。
恋人が接待業なんて、考え物だ。
さっさと止めちゃいなよ」
インバネスが妖しく翻る。
ドアが再び開いたのだ。
入ってきた客が二人に気付く前に、二人の距離は適切なそれに
戻っていた。
先例に倣って、その客がホステスに運ばれて行った後、
せつらは軽く背伸びをして、メフィストに耳打ちをした。
勿論、その内容を俺が知っている訳も無いが、
ドクター・メフィストが軽く頷いて、今まで見えなかったドアを
開き、せつらを招いた所から、推測すれば……――
え?今日は、物をはっきり言わないなって?
そりゃそうだろう。
新宿の二大魔人の話だぜ?
こちとら命掛かってるんだ。
そこんとこ、よろしく推察してくれよ。
せっちゃんがメフィ先生を大好きな状態が好きな私。
原作で酷い分、こうでもしなきゃ、メフィ信者としては、心のバランスが……(笑)
いずみ遊 2002年6月16日
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