ちょっと話を聞いていかないか? *いずみ遊*






 <魔界都市>新宿。
1×年前に起きた超局地地震により、この街はほぼ壊滅状態に陥った。
そこからいち早く復興を遂げ、急成長をなしたのが、お分かりだろ?
人間の三大欲求のうちの一つ、性欲を満たすための商売ってわけさ。







 歌舞伎町、と言えば今も昔も、夜の帝国だ。
そこには昔、新宿区役所というものが建っていた。
昔、と言うからには今は違うんだ。
超局地地震――魔震によって全壊したこの建物は、
翌日、密かに売却され、新たな建物が建設された。
今や新宿区民ならば誰でも知っている。













 超高級クラブ『SHINJUKU』だ――













「おい、昨日、武田のヤツが見たってさ」

「マジで?かああっつ、俺、三日連チャンで通いつめたのに!!」

「もう、あいつ、今日は全く仕事手付かずでさ、
課長に相当絞られてたぜ」

「そりゃそうだろう。直視したら、もう二度と女はどうでもいいと
思うらしいからな〜」

『見てみてえよな〜』











 新宿には、それも歌舞伎町には、クラブなど掃いて捨てる程ある。
ドラッグや、変身が出来るなんて、ザラだ。
余程突飛なことができるとか、揃えている顔がいいとかではなくては
生き残ることは難しい。
そんな立地条件の中、クラブ『SHINJUKU』は、
常に業界トップと言われる人気と、収入を上げている。
広く、清潔で老若男女問わず入りやすいのは大した理由ではない。
また、このクラブでは今まで一度も乱闘などによる死人、
負傷者が出て居ないという新宿では奇跡的なことが起きているのも、
満点回答でなはい。






 ――ならば何故かって?






 それは、世にも麗しい、人間とも思えない様な美貌を湛えた人物が
このクラブを経営しているからだ。
そう、彼、ドクター・メフィストが……――

 彼は多く、店の奥に潜んでいるが、時々、気まぐれのように店へと
顔を出す。
その彼の気まぐれの時間に、居合わせたいと願う人間が連日店へと
押しかけるのだ。

 彼らは口々に言う。
――あれは、女も男も無い。
美っていうものは、誰にでも共有できるものだ。
かくして、男も女も無く、店は大繁盛というわけだ。

 さて、そのドクター・メフィストというのは、
新宿区内では一、二を争う程の有名人であるが、
あまり多くは知られていない。
事実、彼の年齢がいくつであるのか、
魔震の前はどこで何をしていたのか、そんなことが一切分からない。

 ただ、彼が『ドクター』と呼ばれる所以は皆、知っている。
彼が手を触れれば、どんな怪我も、病もたちどころに治ってしまうからだ。
それで、先程言ったような、死人、負傷者0という奇跡が起こる。
彼は優秀な経営者である以前に、優秀な医者なのだ。



























 「め、ふぃ、す、と?」

 クラブ『SHINJUKU』
とんとん、と経営者室をノックする音がする。
これが、実はとんでもなく凄いことだと、お分かりだろうか?
このクラブは、とてつもなく複雑な間取りとなっている。
トイレに行った客が、悪戯心を起こし、経営者室へ乗り込もうとすると、
たちどころに迷子となる。
従業員でさえ、経営者であるメフィストに呼ばれない限り
経営者室に辿り着くことはできないのだ。
ならば、この青年、いったいどうやって?

「いるんなら開けてよ」

 もう一つ、とんとんと叩く青年は……これはまた、
この世のものとは思えない程美しい顔だちをしていた。
ただ、ここの経営者の様に長い髪をしていたり、
全身真っ白だったりはしないので――全く正反対に全身真っ黒だ――
区民なら正確に、彼の名を言うことができた。

 秋せつら。

 西新宿でせんべい屋を営む側ら、人捜し屋として実績を上げている彼だ。
新宿ではこのせんべい屋とドクターが並々ならぬ関係ではないのか、
というのがもっぱらの噂だったりする。
それが事実とは、俺の口からはとてもとても……――


「あき……いや、せつらか?入りたまえ」

 それだけでも美しさを想像出来そうな声がドアの隙間から漏れてきた。
せつらは、それを何でも思わぬ風に、ドアを押し開けた。

 とてつもなく広い部屋に、月が一つ。
否、彼がドクター・メフィストその人である。
先程、声で想像した姿は脆くも崩れ去るだろう。
人間の脳みそで想像出来る範囲に彼に値する美はないのだ。

「久しぶり、元気してた?」

 ドクター・メフィストにこの様な会話が出来るのは、新宿広しと言えども
恐らく、秋せつらだけであろう。
そして、その言葉にメフィストが笑みを向けるのも、彼だけ。

「どうしたのかね、連絡もなしに」

 やはり、連絡なしで、せつらはここまでやって来たらしい。
流石、新宿一の人捜し屋と称されるだけある。
いや、これはドクター・メフィストの恐ろしさを伝えてから言った方が
真実味があるのだが、その辺りはおいおい、話していくことになるだろう。

「連絡しなきゃ、来ちゃ駄目なのかい?
何時から会員制になったんだ、ここは」

 悪びれる様子も無く、せつらはふかふかのソファーに腰掛けた。
もし、この様子を第三者が見ていたら、間違いなく、目を回している。

「いや、私も色々と忙しいから、連絡を入れてくれれば
確実に会えるという事実を告げているだけなのだがね」

「いいよ、別に。
いなければまた来ればいいだけだし」

「君の貴重な時間を無駄にするのは忍びない」

 メフィストは漸く書き物から目を上げ、立ち上がった。
白いケープが妖しげに揺れる。

「はい、これ、お土産」

「ありがとう……」

自分の前にやって来たメフィストへ、せつらは紙袋を手渡した。
秋せんべい店、と見える。
どうやら、自分の店の商品らしい。
メフィストは袋をその繊手で受け取ると、
そのまま、後ろ手にテーブルに置いた。








――……二人の視線が交わる。








 そこだけ切り取っても、モナリザよりも美しい絵画となり得るだろう。
ケープに隠されていたメフィストの腕が、ソファーの背もたれに置かれる。
そして、メフィストは優雅に低く腰を屈めて……―――

















 おっと、今日はここまでだ。
おいしい所は、コマ切れにして出さなきゃな。
セコイ?
ふん、新宿の商売人なんてそんなもんさ。
お互い、利益有っての売買だろ?
じゃ、次も訊きに来いよ。
安くしとくぜ。

















私はメフィ先生しか褒められないみたいです(笑)
緋色さんが漫画でケープじゃないメフィ先生を描いていらっしゃったので、それもいいなぁと
思ったのですが、やはり、ケープで。
こんなんできました!以上。 いずみ遊 2002年5月8日




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