――この街のイメージは常に一定だ。
メフィストは、驟雨に煙る<新宿>を見下ろし、
そっと溜息を吐いた。
白く、白く、何処までも白く。
しかし、この街は……。
それを認めてしまえば、彼の堅固な何かが壊れてしまうというのに。
それでも強く、イメージされるのは……。







God konws *いずみ遊*







 下らない感傷などメフィストには不必要だった。
彼は医師であり、彼を求める患者は山といた。
その意味で、この街は彼にとって最良とまではいかなくとも
居心地の良い街ではあった。
憎しみ、恨み、哀しみ……そんなものはどうでも良い。
渦巻きたいなら勝手に渦巻かせておけ。
彼にとってそんなものは関係なかった。
誰がどのように傷つき、病んでいるかなど、その病状に関らなければ、
どうでもよかった。
彼の目の前に現れる全ての病む人間は、等しく彼の患者ということで
上も下も、右も左もない。

 長い廊下を歩き、飾られている豪奢な絵や花々を見るともなしに眺め、
メフィストは、先ほどから自分の周りを何やらふわふわとしたものが
取り巻いているのを感じていた。
――何故、私に構う?
うっすらと口元に笑みを浮かべた、その姿の美しさ。
――何故、私にこのように物思いをさせる?
白いケープの前が割れ、夢のような手が現れる。
ふわふわと漂う霧のようなそれは、彼の手が触れても、消えはしなかった。
彼の指を通り抜け、また、ふわふわと彼の周囲を巡り始める。
メフィストは、一瞬、目を細め、何事も無かったかのように廊下を左に曲がった。

 そこは、手術室だった。







「やぁ、久しぶり」

「……そうだな」

「久々に人捜しなんて仕事をしたら、これだよ。
向いてないのかな」

「かもしれん」

「冷たいな」

「いつものことだ」

 手術台の上にいたのは、西新宿のせんべい屋の主人だった。
脇腹が無残にえぐれ、本来ならば呼吸をするのも辛いはずだ。
主治医であるメフィストが来る前に、彼の優秀なスタッフ達が
応急措置をしたとは言え、凄まじい精神力と言えた。

「なるべく早くしてくれないかな?明日朝一でせんべいの配達がある」

「バイトに任せておけ」

「そこを、なんとか、ね?」

「女の尻ばかり追いかけているからこうなる」

「え?なんで……」

 ふわふわとしたものは消えていた。
――毎回依頼人やら、捜し人に好かれても仕方あるまい。
無感情のまませんべい屋の脇腹に手を触れ、そしてメフィストはそっと瞳を閉じた。

「……誰が……」

 誰がやったのか。
”彼の目の前に現れる全ての病む人間は……”
揺れ動く。
唯一、この人物だけは。
問い質したくなる。
全てを。
まるで……。

「あ、雪だ……」

 窓も無い部屋で、せんべい屋が呟く。








 凍結せよ、とそういうことか。
メフィストは自嘲めいた笑みを浮かべ、そして彼の患者を見下ろした。
最早、患者以外の何者でもない。








 この街のイメージは常に一定だ。
そして、メフィストは自分の中にも、それと結びつく何かが棲みついているのを感じる。
はらはらと、初雪が舞う。
その中に混じる、朱。
――この街は、女の香りがする。








 それは、誰も知らない。
誰も、知らない。














ふと、<魔界都市>って女が似合うなぁと思ったもので。
如何でしょう。                      いずみ遊 2003年11月18日



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