Limit *いずみ遊*










  限りなく高い空に、限度があると教わったのは何時だったか。
 暗闇に光る[地球]という惑星の写真を見せながら、淡々と
 [宇宙]というものを語り続ける教師の声は、12時の鐘。
 御伽噺の中では、魔法が解けた後シンデレラは幸せになる。
 けれど、魔法が解けた私は、幸せになんて、ならない。






「ええ、小さい頃から空を見上げるのが好きな子でね。
だから私も娘も、あの子が夕焼けに飲み込まれてしまったかと心配で心配で」

 ”帰り人”の伝説。
この街でも、夕映えが綺麗な日には、それに見惚れ、
あちらの世界へ迷った人が帰ってくるという。
無論、帰ってくるだけではなく、あちらの世界に迷い込む、という
過程がその前に踏まれるのだが。

 小さな背中を丸めたおばあちゃんは、数珠を必死に握りながら窓の外を見た。
今日も晴天。
空は、何も語らない。






  子供の頃、よく叱られた。
 空をそんなに見ていると、吸い込まれてしまうよ、と。
 私はそれでもいい、と思った。あんなに広い空間ならば
 私一人くらい隠れても、気付かれない。
 けれど、今はそうは思わない。
 魔法が、解けてしまったから。
 あの空にも限りがあることを、私は知っている。






「君が訪ねてくるとは珍しいな」

 意識を全て持っていかれそうな声が頭上でした。
メフィスト病院の受付に行儀悪く肘をついていたせつらは顔を上げて声の主を見た。
その前に、嫌そうな顔を作るのを忘れない。

「生憎、僕はお前なんぞ訪ねてない。
興味があるのはお前の患者だ」

「帰りに寄りたまえ」

 せつらの言葉を完全に無視して、メフィストは言った。

「ヤダ」

「506号室の患者について知りたいのならば、それが一番手っ取り早い」

「…………」

 教えても居ないのにこれから訪ねる予定の病室を正確に
述べた院長に、せつらはますます胡散臭そうな顔をした。
対するメフィストは何時も通り、冷ややかな表情で
せつらを見下ろしている。

「職権乱用だ。
今すぐメフィスト病院の従業員はストライキを起こすべきだ」

 ぼんやりとメフィストを指差して、勢い良く姿勢を正したせつらは
それでも病棟の方へと足を向けていた。
二三歩歩いて肩越しにメフィストを見る。
そして、一言。

「メフィスト、お前の背中に女の霊が見える」

 メフィストが背後を振り返り、何も無い入り口を確認した時、
せつらは既に病室へと去っていた。






  私は「無」だった。何処へでも行ける。
 ふわふわと漂い、生きる為のことを何もしなくて良かった。
 私は、完全に、空と一体化していた。
 否、違う。
 空には限りがある。
 けれど、私には限りがなかった。
 空は無機物だ。
 何も語らない。
 けれど、私は有機物だ。
 語ることが出来る。
 私は、偉くなった気がした。
 ふわり、ふわり。






「紛らわしいことをするな」

「何故?君はこうして捜し人に会えたではないか」

「僕はてっきり、……いや、……早とちりだ……」

「君がそう感じて仕方あるまい。
彼女は特殊例だ。
ここまではっきりと霊魂が原型を留めているケースは非常に珍しい。
だからこそ、こうして保管保存しているわけだが」

「じゃぁ、僕はずっとゆーれ……」

「皆まで言わないでくれたまえ。彼女は自分がこの様な状況に
陥っていると気付いていないのだ。
まだ、13歳。魔法が解けるには早過ぎるとは思わぬかね?」






 ふわりふわり。
 私の意識は漂っていく。

 ――……今はもう、何処から何処までが私なのか分からないけれど。










 一言BBS4500キリ。「私」By陸さん。……ええと、ご自由にということでしたので、
最近不思議に思っている、「私の限界」というのをお題にしてみました。
私の考えていること、っていうのは面積では表せないのでしょうかね、やはり。
限界、は二つの意味を掛け持っています。一つはもちろん、「私の限界」。
そしてもう一つは、「魔法が切れる限界」。
 いずみ遊 2003年3月9日



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