密着した躯の間を滴り落ちるものが、血なのか、汗なのか、 それとも互いの欲望の証なのか、既に分からなくなっていた。 部屋を満たすのは、噎せ返る様な血の香りと濃厚な情事の熱気 そして、既に意味を成さなくなった言葉の破片たち。 態と卑猥な音を立てて、口付ける。 濡れた唇を幾度も角度を変えて押し付け、舌を絡め合う。 息をする間も惜しく、零れる唾液を気にする余裕も無く。 ベッドの上に散乱した包帯が全部で3本だということを、 せつらはもう判別出来なくなっていた。 それらは一様に蘇芳に染まり、ほぼ夜と同化していた。 ぼやける視界を、瞬きをすることでクリアにしてみるものの、 またも溢れる透明な雫に視界を奪われる。 それに気が付いたのか、メフィストの唇が近付いてきて障害物を舐め取っていった。 この場合の涙は、一体どんな味がするのだろう。 「せつら」 抱き寄せられ―といっても、既に彼の腰の上に座っているのだが― 最後の包帯にメフィストの冷たい手が掛かるのを感じる。 左腕に巻かれたそれには一滴の血も滲んでいない。 但し、そこには。 「君のこの肌に、刻印を押すとは一体どの様な神経の持ち主なのか、 話がしてみたいな」 溜息混じりに、苦笑する。 その願いは永遠に叶わない。 何故なら、そいつはつい5時間程前、メフィスト自身の手で この世から葬られてしまったからだ。 魔震後、未だにその姿を変えない瓦礫まみれの空き地で、 血に染まり横たわったまま動かないせつらと、 彼を前に何やら奇妙な器械を持った老人を見た時、 この<魔界医師>と呼ばれる男がどんな行動を取ったのかを せつらは正確には知らない。 ただ、気を失っていた数秒の間に老人がいなくなり、 代わりにメフィストがいた、というそれだけしか。 けれど、目が覚めた途端に聞かれたのが「今のは誰だ」という 怒りを含んだ問いであったことから推測するに、 彼は、一目あの状況を見た途端に、あの老人を殺したのだ。 ……全く、人違いだったらどうするつもりだったのか。 そう思いながら、一方で口元が緩むのをせつらは止められない。 ツ、と刻印にメスが当てられる。 金属特有の冷たさに、腕が粟立った。 「……くぅっ……」 せつらは甘ったるい声を上げてメフィストに抱きついた。 冷気に反応した躯が、メフィストを締め付けたのだ。 「突然動かないでくれるかね。誤って別の箇所を切るところだった」 言われなくても分かってる、と反論しようにも出来なかった。 一度、火のついた欲望は止められない。 まして、先程までの行為で十分に慣らされていたそこは、 既にどんな刺激をも、快楽へと導いていた。 「もっ……から……っ、はやっ……!」 「せつら、だから……」 メフィストはメスをサイドテーブルに置き、せつらの腰を抱き上げた。 「うぁ……っ……」 抵抗するように収縮する内壁と、せつらの快楽はリンクしている。 メフィストは瞳の奥に明らかな情欲の光を灯しながら、 けれど、何処までも医師としての怜悧さを失わなかった。 再び、せつらをきつく抱き寄せてメスを取る。 「ん」 ぷつり、と肌が切れる しかし不思議なことに一滴の血も流れてこない。 「あぁっ……」 自然と浮き上がるせつらの腰へ針金が巻きついた。 「メフィ」 「じっとして居たまえ」 剥がされた皮膚の向こうに見える紅い肉。 鈍く光るメス。 せつらはメフィストの肩口へ噛み付いた。 微かにメフィストは眉を顰めたが、刻印を切り取るメスの動きにぶれは無かった。 一ミリ違わず、刻印の線をなぞって切り取っていく。 「成る程」 丁寧に切り取った皮膚を剥がす。 表層だけ取られたそれは、透かすと向こう側が見える程薄かった。 「大丈夫かね?」 「……なんとか……」 一息ついてせつらは漸く、メフィストの肩から顔を上げた。 「ごめん、血が出てる」 メフィストの肩には薄っすらと血が滲む歯型が残っている。 構わない、と言う代わりにメフィストはせつらに口付けた。 キスは微かに血の味がした。 「性欲を助長する効果があった様だな」 これには、と端から分かっていただろうに、医者らしく診断を下す。 傷口に消毒液と再生溶液を滲み込ませたガーゼを当て、 上から透明なシールで止める。 数時間後には皮膚が再生するだろう。 「それで……?」 メフィストの医者としての行動が全て終わったのを確認してせつらは問う。 「何か他に治すべき所があるのかね?」 「無いけど、さ……。このままおしまい?」 するりと、自身の欲望をメフィストの腰に押し付ける。 「血まみれの君を抱くという悪趣味なことは出来かねる」 そう言いながら、再び口付けを落とす。 「続きは、浴室で、ということで解決を図りたいのだが?」 「――仕方ない、妥協しよう」 ――ガチャリ。 浴室のドアを開けた血まみれの医者が、 元患者の躯を一瞥してしごく真面目に呟いた。 「明日も入院かな」 「望むところだ」 ――ガチャン。 ……後は、恋人達の時間。 お母様の誕生日記念リク。Daisyさんより、「せつらの入院生活」今ならもれなく メフィストの完全看護付き、でした。私の要望でせっちゃん大怪我に変えていただいた にもかかわらず……。いえ、これは入院なんです!(んな無茶な) 続きそうな雰囲気を醸し出しつつ。 いずみ遊 2002年11月17日 *ブラウザを閉じてお戻り下さい* |