*本当に黒白小説です。興味本位で覗かない方が身のためですよ* Orion *いずみ遊* 透けてしまいそうな程白い肌を仄かに赤く染めて、 口付けを強請った恋人に、少し意地悪がしたくなっただけなのだ。 せつらは、そう心の中で言い訳を考えて口を開いた。 「ねぇ、メフィスト。何か話をしてよ」 伏せていた瞳を開けて、メフィストは少し眉を寄せて せつらを見上げた。 「何を……」 抑えられた声。 それもその筈。微かな振動ですら、今は全て快感へと繋がってしまう。 先程までの行為で、すっかり乱れてしまったメフィストの黒髪を梳きながら せつらは微笑んだ。 「何でもいい。声が聞きたい」 漸く空に昇り始めたオリオンが窓から覗く。 急激に冷え込んだ今日は、夕方を過ぎてから更に気温が低下。 池に氷が張ったというから、かなりのものだ。 せつらは、汗が体温を奪い始めたのでベッドの足元に落ちた布団を 糸で拾い上げた。 勿論、これから話を聞くという決意の固さ相手に示す意味も込めて。 ベッドに横になり、恋人を抱き寄せる。 メフィストは、微かに声を漏らした。 行為の続きを促すかの様に絡みつく内壁に、 意識を持っていかれそうになって、せつらは大きく息を吸った。 「せつ……」 苦しげに、背を逸らしたメフィストを刺激しないよう、 せつらは慎重に口付る。 ここで負けてしまったら、折角のゲームが楽しくない。 痛めつけたい訳ではない。 ただ、この孤高な神を堕としたいだけなのだ。 じわりじわりと侵食し、快楽に溺れる姿を見たいだけ……。 けれど、何時もはそんな余裕も無く抱いてしまう。 今日こそは、という気持ちがある。 「ねぇ、話を聞かせて」 呼吸を整えられない恋人の耳へ、 出来るだけ余裕を感じさせる様な言い方で囁きかける。 与えられている熱と、しかしそれ以上の進攻を見せない状況。 話などしたくない、と突っぱねればそれで終わると言うのに、 それをしないのはこの男なりの誠意なのだ。 せつらは自分の肩口に顔を埋め、 必死に快楽の波を押し返そうとしているメフィストの背を優しく撫ぜた。 「……君は……」 約束でも何でもない、理不尽で柔らかな命令を遂行しようと メフィストが口を開いた。 「君は、もしかしたら、……こうやって、私と、躯を交えるのを 冒涜と考えているかもしれない。 ……けれど、それは恐らく間違いだ」 ちょうどその時、かちり、と時計が音を立てた。 2時。 もう既に3時間、彼をここへ繋ぎ止めている。 今日はダミーが大活躍していることだろう。 「この状態が、女の望むことなのだ……。 女が最大の性感を得られるのは、膣への挿入があった時ではない。 何故なら、女の性感帯は膣内には……ないからだ。 膣への挿入があった時、偶々、陰核へ圧力が掛かり、 それで女は快楽を得るだけのこと。 ……事実、女は男との性行為で五回に一度程度しか、 オルガニズムに達していない、という報告も、なされている」 キンゼイレポート、という名前を、せつらも聞いたことがあった。 「だったら、五分の四の確率で、それはフェイクっていうこと?」 「そうなるな」 ここでメフィストは大きく息を吸った。 「快感と生殖はかつて同じものと考えられていた。 けれど、今は、快感と生殖……生殖すら、性行為とは離されてしまった。 女は、もう男など……必要としていないのだ。 子供は、体外受精で作れるし、快楽も……男がいなくても、 陰核が刺激されさえすれば得られる。 ……つまり、同性同士でも得られることが分かっている」 そこまで一気に言うと、メフィストは無理に躯を起こした。 「めふぃ……?」 反動できつく締め付けられ、せつらはシーツを握り締めた。 夜の冷気が忍び込んでくる。 せつらの躯はすっかり平熱を取り戻していた。 しかし、メフィストの肌にはきらきら光る珠が幾つも浮かんでいた。 「……もう…」 これ以上は、とメフィストは唇を歪めた。 話の続きは後でもいいか、と問うのに答えず、 腰を軽く揺らすと、不意を突かれたのか、メフィストが声を上げた。 「せつら…」 不安定な体勢、緩やかにしか与えられない波。 耐えられなくなって、メフィストは両手をベッドへ付いた。 長い漆黒の髪が、せつらの腹の辺りを、ふわふわと揺れる。 「……らっ……」 冷静にメフィストの話を反復することで、せつらは上がりそうになる熱を 平常なままに保っていた。 快楽と苦痛の間を彷徨って潤む瞳がせつらを見下ろしている。 普段は深く暗い海の底の様な色をし、何も映していないのではないかと 思われる双眸が、せつらの顔を映し熱を持っている様は、 またも、せつらの決意を挫けさせようとしていた。 「続きは?」 何とか持ち直して訊ねる自分の声が掠れていた。 せつらは微かに苦笑する。 これではどちらが焦らされているのか分かったものじゃない。 メフィストは軽く首を横に振った。 「メフィスト、続きは?」 「……せつら……。もう、……」 「もう?」 瞬きをした拍子に、メフィストの目から一粒の雫がせつらの肌に落ちた。 メフィストは、直ぐに片手で顔を覆い、視線を逸らす。 しかし、メフィストの顎を捕らえたせつらの手にも冷たいものが伝った。 生理的なものと分かっていても、それは酷くせつらの欲情を煽った。 ――愛しい 頭の中で、数百回は謝罪の言葉を述べつつも、 性急に、最奥へと切り込んだ。 散々焦らされた中は、とろけるように熱かった。 メフィストはクッション枕を顔に当て、必死に声を漏らさぬ様に耐えていた。 けれど、聞こえてくるくぐもった声は、快楽の印。 せつらは凶悪すぎる恋人を蹂躙しながら、軽い眩暈を覚えていた。 本当に、この男は―― 「好きだよ、メフィスト」 思うままに突き上げ、せつらがメフィストを解放した時には、 時計の針は大分進んでいた。 まだ微かに濡れている睫毛を、メフィストはゆっくりと持ち上げた。 気だるげな視線に、また流されそうになって押し留める。 「……女が男を嫌う時代が来るかも知れぬ」 散々、声を上げて掠れた声で、急に話し出したメフィストを せつらはまじまじと見つめた。 「快楽が得られる可能性は20%なのにも関らず、 男は無理やりにも挿入しようとするからだ」 どうやら、先程の話の続きらしいということが分かったが、これは……。 「……お、怒ってるの?」 流石に後ろめたい気持ちがあるので、せつらの顔が自然に引きつる。 考えてみたら、自分が逆の立場で同じことをされていたら、 きっと怒っているだろう。 手の一本や二本、患者用に切り取られていても文句は言えまい。 「――怒っていると思うのかね?」 口調は何時も通りだが、やはり少しぐったりとしている。 せつらの冷たい手が気持ちいいのか、頬を寄せ、また瞳を閉じる。 せつらは訳が分からず、恋人の顔を覗き込んだ。 怒っていないのだろうか。 では、何故、急にあんな話をし始めるのだろう。 「……あの生き物に情けを掛けることが不本意だが……」 メフィストは片手をせつらの背に回した。 彼には珍しく、その腕は熱を持っていた。 汗が引いた肌に心地よい。 「私ならば、嫌だと思ったのだ。 ――好きな相手と一つになっても 気持ちよさを得られないことがあるなんて」 言って、そのままおやすみ、とメフィストは眠りに落ちた。 「…………ホント、おまえって男は……」 ――何処まで惚れさせたら、気が済むのだろう。 せつらは独り呟いて、恋人の肩までしっかりと布団で包み込み、 瞳を閉じた。 カチリ。 午前3時。 オリオンの三ツ星が窓枠に消えかかっていた。 日記2500キリ。「黒白」By暁さん。 オリオンに深い意味はありません。今の時期、一晩中見える星座です。 遅くなってごめんなさい。これに懲りず、またリクしてやってください。 いずみ遊 2002年11月6日 *ブラウザを閉じてお戻り下さい* |