*興味本位で覗いてはいけません。黒白小説です*











 SKIN *いずみ遊*









 カラン。
氷がグラスを滑る音で、目が覚めた。
オレンジ色の光が、細まり、消える。

「すまない。起こしたかな」

 掠れた声で問われ、「いや」と肯定とも否定とも取れぬ言葉を返した。
ベッドサイドの明かりをつけると、
琥珀色の液体がなみなみと注がれたガラスコップを持った恋人が、
ゆっくりとこちらへ歩いてくる所だった。
バスタオルを腰に巻き、それ以外は惜しげもなくその白い肌を
さらしている。
濡れたような黒髪が、少し乱れ、その腰の辺りを揺れていた。

「寝なかったの?」

 恋人がベッドに滑り込むのを待って、尋ねる。
彼はグラスに唇をつけながら、視線でサイドボードを示す。
そこには数枚の用紙が丁寧に重ねられていた。
何やら書き込みがびっしりとされている。

「仕事?なら、言ってくれれば良かったのに」

 明かりを消した状態で、どうやって彼があの書き込みをしたのかは
敢えて考えない。
端から、普通の人間だと思って接していないからだ。

「言えば止められる状況だったのかね」

 苦笑と共に言われ、思わず頭を抱える。

「……ごめん」









 何がきっかけなのかは自分でも良く分からない。
気だるげに吐かれる溜息や、軽く伏せられた瞳、
そんなものに、いとも簡単に堕ちる。

 今日は元はと言えば、一ヶ月に二度程ある定期検査の日だった。
検査中は何事も無かったのだ。
けれど、検査が終わって、コートを肩に掛けられ……
そう、その時に首に触れた繊手に、煽られた。
そのまま、その手を取り、後はもう坂道を転がる石と同じ。
「ベッドで」と言う恋人を机に押し付けたまま――
……。
少し、自己嫌悪に陥りかける。
結局、ベッドに辿り着いた時には日付が変わっていたのだ。









「別に謝る必要はないと思うが」

 恋人の言うことも分かる。
無理強いは愛情の深さと比例するのだ、と。
その言葉を彼が言う分には構わないのだ。
けれど、それを自分の理由には出来なかった。
彼を愛していること、彼から愛されていることに疑いは無い。
だから、そこにものさしとして行為を挟む必要性は皆無なのだ。

 彼の性的嗜好は全く持って明快単純。
『快楽が得られるならば何でもいい』
不肖の恋人が強いる全てを許容してくれる。
若しくは、許容しようとしてくれる。

「残念ながら今日はこれ以上お相手出来かねるがね」

 冗談の様に言って笑うその横顔から、そっと顔を背ける。
それが真実なのだろうから。
掠れた声も、多分照らせば浮かび上がるだろう背中の跡も、
少し離れてベッドに入った、その距離も、見境無く彼を抱いた
その代償なのだ。










 軽く口付けを交わし、すっぽりと布団を被る。
長時間の熱の交換で、刺激に敏感になっているだろうに、
厭わず抱き寄せてくる恋人に、頭が下がる。
如何してここまで真剣に愛してくれるのだろう。
「甘えているだけだ」と彼は言うが、その甘えの潔さが心地よい。






「もっと、僕を怒ってもいいのに」

 呟くと、彼は微かに首を横に振った。

「君に抱かれながら、仕事を思い出した私も悪い」

 そうして、恋人の隣で仕事をしていた非を詫びる。
――ああ、もう……

「罰として謹んで受けさせてもらうよ」

 火の付いた欲望を必死に押さえ込む。
それに気付いた彼は微かに笑って、すまない、と漏らした。
本人さえ、その着火点を知らないのに、彼が知る由も無い。
本当に、何処までこの男は……――

















 結局、耐えられなくなって、
一回だけと、夢の入り口に入りかけていた彼を起こした。
怒るでもなく、笑うでもなく、彼はそっと首に腕を絡めてくる。
何度目かの謝罪が胸を占める。
けれど、もう如何する事も出来なくて。


















 深く口付けると、舌に痺れが走った。

 ――それは、約束を守れない恋人を罰するかの様な
甘くほろ苦いウィスキーの名残だった。

























日記2300キリ。
題名はB'zの歌から。歌詞が色っぽいんです。ああいう詞の世界をイメージしながら
何時も書いておりますよ。ということで、リクは「黒白」By暁さん。
黒白、いいよね(笑)何がいいって、メフィを何処までも褒められるところ!!!
いずみ遊 2002年9月29日





*ブラウザを閉じてお戻り下さい*