頬と唇に寄せて *いずみ遊*








 浅く繰り返される息、縋るように快楽に溺れ潤む瞳。
それを愛しいと思うと、それを奪ってしまう口付けは無粋なものに思えてくる。

 口付けを強請る彼にそう告げると、彼は微かに笑って、甘く私の名前を呼んだ。
私の目下の想い人は、我儘であった。
本人に言わせれば、「僕はお前の言いなりに過ぎない」のだそうだが
事実として、私は性交渉一切に関る全権を彼に託している。
ただ一点、私が彼を抱く、ということを除いて。






 多少の未練も残しながらご希望通り、口付けを落とす。
軽く開かれた歯列。
彼の口付けは何時も積極的だった。
淡白な私を詰るかのように熱を与えてくる。

 深く深く。
口内を侵しながら、彼の先走りの液を掬って、それを潤滑油に後ろへと手を伸ばす。
ゆっくりと指を入れると、彼の躯が微かに強張った。
彼の場合表情は全く当てにならない。
痛みを正直に申告するのは躯であった。
唇を離し、宥めるようにシーツを握り締めていた彼の手を取り、
丁寧にその指を一本一本舐めていく。

 流石に中は数時間前の行為で十分に慣らされていたので、彼は直ぐに躯の緊張を解いた。
逆に私の方が、数時間前に出した欲望の跡に触れ、顔を顰めることになった。








 今日は、彼を抱いた後、眠りについたのを見届けてから幾つか仕事を片付けた。
そして、やっと彼の隣でうとうとしかけた所を起こされた。
「全然眠れない。もっと酷くしてくれ。」
今まで、寝返り一つ打たず熟睡していた男が「眠れない」とは、
一体どういう理由付けなのだろうか。
そんな皮肉一つも言わせてもらわないまま、こうやってまた彼を組み敷かされている。
これも彼曰く、「お前が無意識に僕を誘うからいけない」らしい。








 指を二本に増やし、態とポイントを外して動かすと、
快感を掴みきれないもどかしさに、彼の脚はシーツを鋭く滑った。
「もっと酷く」と言われても、焦らすこと位しか思いつかない。

 彼が羞恥に頬を染める姿も、涙して懇願する姿も取り立てて見たいとは思わない。
それは、本来の意図とは違う。
生殖を伴わない性行為は、互いに快楽を享受し合えれば目的を達成しうる。
そこに、相手を独占しようとする意思は、私の場合働かない。

 ただ、彼が望めば、それは本来の意図から逸脱した行為にならせしめることは可能だった。
――本当に、何処をどう見れば「僕はお前の言いなり」などという考えが浮かぶのだろう。









 私が別のことを考えていたのに気付いたのか彼はその潤んだ目をこちらへ向けてきた。
彼が行為の最中に正常な意識を手放すことは稀だった。
何か咎められるのかと、指を抜いて身構えると、
その衝撃に眉を少し顰めてから、彼は口を開いた。






 ――もっと、愛してよ。






 仰せのままに。
――そう、答える代わりに、彼の中へと切り込んだ。
そのまま彼をベッドから起こし、背中にしがみ付かせる。
急に深い所まで侵され、彼の乱れた息が
忙しなく私の肩口へぶつかってくる。
――愛しい。
私はその息が収まるのを待たずに、彼を優しく揺すった。
突然のことに、彼は思わず声を漏らす。
普段の私を思い、油断していたのだろう。
「酷く」と言ったのは、君なのに。




















 瞳を堅く閉じ、恍惚の絶頂へと上り詰める様子を誰にも邪魔されること無く観察する。
体温の上昇に伴い紅潮する頬や、快楽に流れる生理的な涙。
何が違うのだと言われては困るのだが、そんな頬や涙ならば、
寧ろ積極的に染めてみたいし、流させてみたい。





























多分、私はどうしようもない位、彼に溺れているのだ。
























一言1500キリ。
リク内容は「メフィスト」By堕天使さん(現:暁さん)
かねてからエッチシーンをメフィ視点で書いてみたかったので。
思ったほど、色っぽくなりませんでした。何ででしょう。
いずみ遊 2002年9月14日





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