太陽は沈まない *いずみ遊*











「それとも、罰として、変わった趣向で交わってみる?」









 その言葉にメフィストは、ふ、と微かな吐息を漏らした。
せつらの手からメフィストの髪の毛がさらりと流れ落ち、
白いせつらの肌の上を滑る。

「喩えば、どの様に?」

 口付けで簡単に火の点いた躯を合わせ、
互いの熱を通わす。
汗が引いた躯は予想以上に熱を欲していた。

「そうだなぁ……。
おまえ、大概普通だからな。何しても『変わった趣向』だよね」

 もぞもぞと指を動かし、何処かに落ちてしまった掛け布団を引き上げる。
部屋の冷気を含んでしっかりと冷たくなってしまった布団ではあるが、
メフィストの背に触れるだけで自分に実害は無いので気にせず掛ける。
対するメフィストも文句は言わず、大人しく布団を掛けられている。

「何か無いの?まさか、本当にノーマルなのしか知らないとか
言わないでしょ?」

 メフィストの背に手を回し、布団が温まったのを確認してから、
そっとメフィストの肩を押して意思表示をする。
メフィストは躯を少しだけ起こして、せつらの瞳を覗き込んだ。
寒くないか、と聞きたいらしい。
せつらは頷く代わりに、メフィストに口付けた。

「普通とそれ以外と、何処に線を引くのかね?」

「今そんな難しいこと言われても頭働かないよ、
眠くなっちゃう……」

「ならば眠れないようにしてみるかね」

「え?」

「少し寒いが」

「構わないけど」





 構わない、と言われたにもかかわらず、メフィストはせつらを
布団で包んで抱き上げた。
器用に片手でブラインドを引き上げながら、せつらを床へと下ろす。
窓際。
夜の冷気が窓越しに伝わってくる。
窓の向こうにはビルが立ち並ぶ。
ネオンが煌く歌舞伎町二丁目。
喧騒もここには聴こえない。

「確かに立ったままじゃ寝ないだろうね」

「君は眠れそうだがね」

「……おまえとのセックスの間に寝た覚えはないよ」

「当然だ」

 するりと、掛け布団が床へと落とされる。
月光が、せつらの肌を染める。
その光すら滑り落ちてしまいそうな滑らかな肌。
メフィストはせつらを一瞥して、無理に背中から抱きしめる。
少しバランスを崩しかけて、せつらは左手を窓につく。
目の前には新宿の街。
人と妖物が蠢く不夜城だ。

 決して他人がこちらを覗き込む様な場所ではないが、
こちらからはビルで動く人影が確認できる。
焦点をずらせば、……明るいネオンは窓を鏡にする。
メフィストに背中から抱かれた自分自身が映る。

「せつら」

 名前を呼ばれ、耳朶を食まれる。
いきなりのことに声が漏れそうになり、せつらは唇を
噛んだ。
それを鏡と化した窓で確認したメフィストは低く哂った。

「見られる筈が無いと分かっていても、やはり自制が
働くようだな」

「人間として有って然るべき羞恥心じゃないか」

「君から羞恥心などという言葉を聞くと、
加虐的な心情に陥るな」

 何の前触れも無しに、先程までの行為で十分に慣らされた
秘所へとメフィストの手が伸びる。
せつらが息を呑む。
メフィストは指を捻り込む寸前に、肩越しにせつらの表情を見た。


 ……。


「嫌なら嫌と言いたまえ」

 苦笑しながら、せつらの体を反転させ、自分の腕の中に収める。
慌ててせつらは首を振って抗議する。

「ちがっ……違う、嫌だなんて思ってない」

「なら、何故?」

「……自分の姿を見るのが嫌だから……」

「やはり、嫌なのではないか」

「おまえにこういうことをされるのは嫌じゃないけど、
でも、おまえに乱れさせられてる自分を見るのは駄目なのっ!
別におまえが見る分には……っ……構わない……」

 仄かに頬を染めたせつらに、メフィストは肩を竦めて、
窓の外に浮かぶ月を見上げる。
――私だって、君を抱く自分の姿など見たいとは思わない。

 ブラインドを閉じ、そのまませつらを押し付ける。
がしゃん、とブラインドが悲鳴を上げるがメフィストはそんなことには
頓着しない。
せつらもブラインドの冷たさに顔を顰めたが、今度は抗議しなかった。

「これでいいかね?」
――普段とあまり変わらないような気もするが。

「うん、ありがとう」

 微笑む唇にメフィストが口付ける。
せつらが動くたびに音を立てるブラインドも、
何時しか淫靡な喘ぎと同調する……――
















 ――セックスの最中の自分を見ると、自分がどれ程おまえに執着しているか
無理やり再認識させられそうで、怖かったんだ

 ぐったりと床に倒れながら、呟いたせつらに、
メフィストは思わず微笑みを漏らした。
珍しい、とせつらがメフィストの顔を凝視すると、
メフィストは微笑んだまま、こう答えた。

「私もそう思っていたよ」

















結局二人が泥のように眠る頃には、
太陽はニューヨークから新宿へ至っていた。








もっと、エロくなる予定だったんですが、予定は未定。
機会があればリベンジになるかもしれません。
病院のロビーとかでね……。        いずみ遊 2002年8月15日






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