ネムレナイヨルニ *いずみ遊*







 微かな吐息も漏らすまいと
胸に耳を押し当て息を凝らす。
そのうち呼吸が苦しくなったのだろうか、
寝返りを打とうとする。
慌てて身体を起こす。

 ひんやりとした冷気が素肌に触れる。
夏だと言うのに、この部屋は何時来ても
こんな感じだ。
暑いならばあのうざったいケープを脱げばいいのだ。

――……。

 半袖姿のこいつは想像するだけでも笑える。

 ――……。

 すっかりツボに入ってしまい、身体をくの字に曲げて
必死で笑いを堪える。
しかし、そういう時に限って思考はあちこちするもので、
頭の中で散々着せ変え人形にしてしまい、
笑いは中々治まらなかった。





 一頻り笑ってしまった後、ちょっと罪悪感もあって、
恐る恐る白い顔を覗いてみる。
深い漆黒を湛えた瞳は、今は閉じられている。
あの瞳が好きなのに。
濁りの無い真っ黒な瞳。
何時もどこか寂しげな、諦観した様な瞳。
その瞳が見たいと思ったが、そこはぐっと我慢する。
…………瞼なんて捲ってみたら、きっと笑い死にしてしまうに
違いない。



 また笑いの世界に引き戻されそうになって、
いけないいけないと口元を引き締める。



 額に掛かる前髪をそっと掻き分け、瞼に口付けを落とす。
そうして、起きないことを確認してから、唇へと移動する。
別に起きていても構わないし、こんなことをしていたからって
からかう様なヤツではない。
だけど、時々はこうやって知らないうちに愛してみたい。
こんなことが出来るのは世界でたった一人なんだと、
馬鹿みたいに確認したくなる。


 触れるだけのキス。


 甘い香りに、常の色事の雰囲気はなく。
ごくごく小さなキス。

 身震いを一つ。どうやら長く冷気に当たりすぎたらしい。
ベットに潜り込んで冷えてしまった身体を恋人に押し付ける。
結局今夜もケープを脱がなかった憎たらしいヤツ。
こんちくしょう、とケープをちょんと引っ張ると、
突然そのケープから腕が出され、抱き寄せられた。
あ、と思う間もなく、口付けられる。

「――おやすみ、せつら」

 一言。
そのまま、また、眠り始める。





 ……ホント、憎たらしいったらありゃしないよね。
再び火照った身体を持て余しながら、
新作のせんべいのことを努めて考えるようにして目を閉じる。









 ――……多分、今晩も結局寝不足だ、と諦め半分で。














いずみ遊 2002年7月22日




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