Dive to…… *いずみ遊*









 一枚一枚、理性を剥がされて、冷たい外気に肌が震える。
それを笑うかのように、白い医師は殊更ゆっくりと
剥き出しの鎖骨を舌でなぞった。
生暖かい感触に、堪らずざわりと鳥肌が立つ。
――寒さが原因なのではない。
これから齎されるであろう快楽を、
身体が早くも感じてしまっているのだ。

「ね、メフィスト」

 指と舌で胸を愛撫され、息が上がる。
長い絹の様な漆黒の髪が、さらさらと肌を滑り、
それすらも性感を刺激する要素となる。
……全く、どうかしてる。

「何かね」

「未だ、聞いて無いよ」

 肌に纏わり付くメフィストの髪を、そっと掻き揚げて、
そのまま柔らかに頭を抱きしめる。

「誘っているのかな」

 メフィストが低く哂う。
その振動に、また、煽られる。

「違う……――」

「ほう?」

「誘う必要なんて、ないだろう?」

「それには同意するが……」

 するりと形の良い繊手が、下半身へと伸びる。
せつらは、息を潜めた。

「もう少し、お喋りを止めてはどうかね、せつら」























「んっ……」

 胸の突起を舌で嬲られ、声を漏らすまいとせつらは唇をきつく噛む。
長い指が、それを哂うかのように、弄んでいたせつらを握った。
背筋に痺れが走る。

「めふぃ……」

 声が震える。
もう、駄目だと身体中が訴えている。

「あっ……い……っ……」

 声にならない悲鳴とともに、達した。

「声を聞かせてはくれないのかね?」

 汗一つかかぬまま、メフィストが何時もの声で問う。
ケープは脱いだものの、シャツのボタンが二つ、
外されただけの格好である。
そこから色素の薄い肌が覗く。

 ――倒錯した欲望。
せつらは、視線を逸らした。
今の自分がどこまで平静でいられるか、自信がない。

 せつらが返答しないままでいると、手は更に奥へと伸びた。
手に受けたせつらの精を潤滑剤にして、
ゆっくりと秘所へと侵攻を開始する。

 異物の入り込む奇妙な感覚に、せつらは反射的に
脚を閉じようとするが、メフィストが押さえているため、叶わない。







 じっくりと、犯されていく――
その事実に、眩暈がする。
























 秘めやかな儀式を、青白い月光が染める。
一つに繋がった二つの身体の美しさを称えるがごとくに、
染めている。



「聞か……っせ……て、めふぃす、と」

 うわ言の様にせつらが言った。
ぎしぎしと音を立てるベッドに掻き消されるほどの声で。
メフィストの作る影が、ゆらゆらと揺れる。

「そんなに欲しいかね、このメフィストの言葉を」

 言われながら突き上げられ、せつらはまた
声ならぬ悲鳴を上げた。
苦しい。
冷酷ともとれる言葉を囁きながら、
こんなにも愛しい気持ちを伝えてくる。
おまえは、酷い男だ……――

「ほ……しい……っ!」

 前を優しく握られ、追い詰められる。
頭が真っ白になる。
唇を噛もうにも、そんなところに神経が集中しない。
有り得ない快感に身体中が震える。

「あああっ……・あっ……」

 口から漏れる嬌声が自分のものだと悟る前に、せつらは果てた。
間をおかず、熱い液体が体内に注がれたのが分かる。
そして、強く……強く抱き止められた。



















 情事後の気だるい雰囲気の中で、
メフィストに抱きしめられながら、せつらはそっと嘆息した。
やばすぎる。
触れられるだけで得られていた充足が、
身体を一つに繋げただけで、増幅される。
それを知ってしまったから。
もう、戻れない。

 結局最後まで衣服を脱ぐことのなかった医師の胸に
頭を擦り付け、構ってくれと、アピールする。
メフィストは微かに笑って、頭を軽く叩いてくる。
もう既に、抱きしめられているのに。
貪欲な自分。
けれど、しょうがないではないか。
自分は彼のことが好きなのだから。






「せつら」

 愛しげに名前を呼ばれる。
そして、優しい口付け。

 今日はそれで許してやる。
おまえが言葉に出来ないことも、
本当は全身で理解しているのだから。









「おやすみ、メフィスト」
良い夢を――

 勿論、今夜、悪夢を見るなんて、有り得ない話だけれど。

「おやすみ、せつら」






 その声がほんの少し、何時もと違うだけで、舞い上がる。
きっと、恋ってそんなものなんだと思いながら、
せつらは幸せの淵へと堕ちていった。














いずみ遊 2002年6月16日



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