afternoon rhapsody *哀夢さん*
院長室には光があふれている。
ある冬の午後のことだった。
この部屋に今、そのあるじの姿はない。
かわりに美貌のせんべい屋がひとり。
彼は院長の椅子に腰をかけ、大きな机に
うつぶせに体を預けている。
もう小一時間ほど待ちつづけ、
はじめは行儀良くソファに腰掛けていたのが
とうとう待ちきれなくなったものらしい。
机の上には様々なものが置かれていたが
―――羽ペンだの書類だの、頭の大きな犬のキーホルダーだの
それから一般人がさわるとちょっと無事ではすまなそうなもの――
それらを乱雑に端へ寄せて突っ伏したまま、彼は目を伏せていた。
だが眠っているわけでもなさそうだ。
顔のすぐ脇には彼の持参らしい包みがあって、
「秋せんべい店」の文字が読み取れる。
さっきから、せつらの指はしきりとその包みを弄んでいた。
まるでそれがなくなってしまうことを恐れるように、
くりかえし触れてみては引き寄せる。
それはすくなくとも、ひとつの理由ではあった
―――このなんでもない午後に、彼がこの部屋へ訪れるための。
こんなふうに彼を待つせつらを、きっと彼は知らない。
柔らかい陽射しはゆっくりと午後の街を溶かしていき、
部屋には光があふれる。
部屋はけしてあたたかくは無かったが、
陽射しに包まれていつしか、せつらは本当に眠ってしまった。
ほどなくして、院長室の扉が開いた。
占領された自身の机に目を留めて、
ドクター・メフィストはくちもとをほころばせる。
「いつから私の机を枕代わりにするようになったのかね」
声を掛けるが返事はない。
メフィストはせつらに歩み寄ると、傍らの包みに触れた。
そして微笑みながらいう。
「――――起きているときも、こうして眠っている時でさえ…
君は私の心を乱さずにはおかないのだね、せつら」
それでも起きる気配はない。
かすかに聞こえるやすらかな寝息に、メフィストはまた
笑みを浮かべずにはいられなかった。
こんなふうに微笑みかけられる一瞬があることを、
きっとせつらは知らない。
お互いにまだ知りえないふたつの日常。
それはまだ、点でしかない。
この午後に刻み付けられた、ふたつの予兆でしかない。
それでもメフィストは、彼の傍らに佇んでそっと目を伏せる。
訪れるかもしれない、あるいは訪れることなど無いのかもしれない
―――――予兆が線で繋がるときを、待つかのように。
街はもう、薄闇に染まり始めている。
メールで頂いた小説があまりに素敵だったので、
本人にすぐさま強請ってしまいました。素敵でしょう?素敵でしょう?
原作をあれしか読んでいないのにもかかわらず、こんな院長室の一コマが
書けてしまうなんて、羨ましい限りです。
哀夢さんへの感想はいずみまでで。
しっかりお伝えします♪
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