好き *広瀬刹羅さん*






満月が輝く深夜。
 セキュリティーを、あっさりと看破して、院長室へ姿を見せた秋せつらは、
 自分が入ってきたのに顔を上げない、この部屋の持ち主を見つめていた。
 メフィスト病院の院長、ドクターメフィスト。
 この男とは、一体何度躯を繋いだのだろうか…。
 初めは、ソファーに座り、ぼんやりとデスクに向かうメフィストを、
 言葉を発しないまま見つめているだけだった。
 その内、一人でいる事に飽きてしまい、メフィストの側まで近寄る。
「なぁ、メフィスト…」
「何かね」
「何やってるの?」
「見てわからないかね」
 どこをどう見ても、デスクに向かって本を読んでいるとしか見えない。
 溜息を吐いて、奥にあるベッドへと転がる。
 窓の外を見ると、満月が視界に入った。
「ねぇ、メフィスト…」
 窓の方を見たまま、声をかけても、返事がなかった。
 チラリとメフィストの方へ視線を向ける。
 同じように、チラリと視線を向けただけで、
 また本へと視線を戻すメフィストの姿が、視界に入った。
 再び窓の外に視線を向ける。
「メフィスト…」
「何かね」
 もう一度呼ぶと、今度は返事が返ってきた。
 しばらく無言でいると、今度はメフィストの方から、溜息が聞こえる。
「用がないのなら、いちいち呼ばないでくれないかね」
 少しだけ、眉間に皺を寄せ、せつらは何かを飲み込む。
 震えるような声を、ようやく絞り出した。
「お前の好きなのって、「ぼく」なの?それとも「私」?」
 空気の流れが、変わった。
 パタンと、本が閉じられる音が聞こえる。
「急に、なんだね」
「折角、お前に逢いに来たのに…「ぼく」だから、相手してくれないんだろ。
もし「私」だったら、相手してくれる?」
「何を言っているのかね」
「だって、お前は「ぼく」より「私」の方が好き…だ……ろ…」
 言葉が詰まった。
 メフィストがベッドまで歩いてくる。
 その間、せつらは、唇を噛みしめた。
 ベッドの縁に腰掛け、メフィストの指が目元を拭った。
「何を、泣いているのだ」
「え…泣いてなんか……」
「まったく…君という男は……」
 せつらを抱き起こしたメフィストは、静かに髪を撫でる。
 肩口に顔を埋めたせつらは、嗚咽を漏らす。
「寂しいのなら、寂しいと言えばよかろう。
何も言わないから、私は私の作業を続けていただけの事。
何をして欲しいのか、言わなければ、いくら私でもわかるわけがなかろう」
「そんな事…言わなくても、気付け…よ……」
「駄々っ子だな」
 そう言って、ふわりと笑う。
 せつらの顎を捕らえ、顔を上向けると、瞳を覗き込んできた。
 愛しい…。
 瞳がそう、告げている。
 せつらの頬が朱に染まる。
「メフィスト…」
「どちらの君でも、私の想いは変わらないよ。ただ…」
「ただ?」
「こんな風に過ごすのなら、今の君の方が好みではあるがね」
 そう言って、唇を重ねる。
 直ぐに離れ、耳元で囁いた。
「愛してるよ…せつら」
 再び唇を重ねる。
 触れあう刹那、せつらが想いを漏らす。
「ぼくも…お前が、好きだよ…」
 二人が一つに溶け合うまで、ほんのわずかな時間があればいい。
 今は、こうしてメフィストの腕の中に居たいと、せつらは思っていた。

                     〜了〜






かわいい壁紙が使いたくても使えない私の小説の代わりに広瀬さんが書いてくれました(嘘)
甘い。この雰囲気がうちのサイトにもあればいいのに。そしたらかわいい壁紙が使える……。
(かわいい壁紙ばかり集めている(笑))
毎度毎度、ありがとうございます、広瀬さん。
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