酔闇 *広瀬刹羅さん*







月の光を浴びながら、秋せつらはフラフラと歩いていた。
 珍しく酒を飲んだせいで、酔っぱらっているようだ。
 酔ってはいるものの、どこか意識がはっきりしている。
 多少の千鳥足も、この美しい魔人ならば、絵になるらしく、
 すれ違う人々が頬を赤らめて、振り返った。
 辿り着いた所は、メフィスト病院だった。
 セキュリティーもあっさり看破して、病院内へと入っていく。
 堅固な院長室の扉を、この若者にしては珍しく無造作に開ける。
「メフィスト、居る〜?」
 これも珍しく陽気な声で、室内へと声をかける。
 机に向かい、なにやら書き物をしていたメフィストが、顔をあげた。
「随分、ご機嫌だな、せつら」
「そんな事ないよ」
 そう言いながらも、メフィストへと近づき、背中に寄りかかる。
「君からこんな事をしてくるとは、珍しい事もあったものだな」
「そうかなぁ〜」
「いつもなら、こんな事をしては来ないだろう」
 作業が終わったのか、ペンを置き背に寄りかかっているせつらの手を取り、手首に口づけをする。
 これもまた珍しく、せつらはされるがままになっていた。
「何か、あったのかね?」
 不審そうに、メフィストが訪ねる。
 答えないまま、せつらが抱きついてきた。
「メフィスト…キスしよう」
「せつら?」
「ね、キスしよう」
 耳元で、ねだるように囁かれ、メフィストは驚いた顔で振り向く。
 溜息を吐いて、メフィストが立ち上がろうとしたので、せつらは抱きついた腕を外す。
「君から、求めてくるとは…珍しい事もあったものだ……」
 小さく呟き、せつらを抱き寄せる。
 首に腕を回して抱きつくと、せつらはねだるように瞳を伏せる。
「ねぇ…キス」
 一瞬、苦笑を浮かべて、メフィストは唇を重ねた。
 唇を離した瞬間、せつらの身体の力が抜けて、崩れ落ちる。
 慌てた素振りも見せず、メフィストはせつらを、抱き抱えた。
「せつら?」
 腕の中で、規則正しい微かな呼吸が聞こえてきた。
 酒に酔っていたせいで、眠ってしまったらしい。
 溜息を吐き、メフィストはせつらを抱え上げた。
「まったく、生殺しもいい加減にしてくれたまえ…そんな所が……」
 最後は、心の中で呟く。

 愛しい…。

 せつらをベッドに寝かせ、脇に腰掛けると、サラサラの髪を梳く。
 安心したような表情で、せつらは眠り続けていた。 

                             〜了〜







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