小さな世界 *Daisyさん*










「梅が咲いてたよ」



午前零時。

閉ざされた小さな世界。

2人以外、誰も存在しない小さな世界。



せつらが思い出したように、呟いた。
その手は相変わらず、黒い絹のような髪を、優しく梳いている。
メフィストがせつらの胸に凭せ掛けた頭を僅かにずらして、顔をあげる。

視線が―――

絡まる。

『美しい』と。

そう思う。

微かに紅く染まった目元が。
薄く微笑む形のいい唇が。
こんな瞬間にふと見せる表情が、昼間の高潔な姿よりもずっといい。



「君の口から花の話が聞けるとは」
「せんべい以外もちゃんと見えてるよ」

小さな甘い溜息にも似た笑い声。

「よほど美しい梅だったと見える」
「あ。妬ける?」


思いつきで言った台詞に、だけど、”僕の魔界医師”は笑うのをやめて。
珍しく困った様な瞳をして見つめていた。
その様子に、せつらがちょいと首を傾げる。


「妬ける、な」


暫くかかって出てきた答えに、正直すぎて驚いた。


嘘は吐きたくないと、自分の心を探るのが分かるから。
少し迷って、答えた事が分かるから。
やはりあの美しく咲いた白い梅を見て、
おまえのことを思い出したのだと言ってしまおうか?


だけど次の瞬間、口をついて出たのは

「藪医者め」

いつもの憎まれ口だった。


せつらの両手がメフィストの頬を優しく包み込むと、ゆっくり瞼が閉じられる。









小さな世界ではキスの雨だって降ってくる。










<Black Velvet>のDaisyさんより。確かに激甘!と受け取った時に思いましたよ。
黒白のメフィは、ちょっとばかり可愛く書いてもらえるので、私としては、「サイコー!
星3つ!!」状態なのです。人でなく、いきなり花に嫉妬してしまう、嘘の嫌いなメフィ。
かーわーいー!!!いいです。限りなくいいです。さらりと、甘い小説が書けてしまう
Daisyさんに感想が言いたいの、という方はリンクからどうぞ。
素敵な小説を送っていただき、Daisyさん、ありがとうございました。     2003年3月25日



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